大人の、ストリートキッズ達に対する冷ややかな態度は、今までの経験からも判っていたはずなのに。でも、実力をつければ誰にもさげすまれずに胸を張って生きてゆける。
わたしは勉強に勉強を重ねて、ついには、科学雑誌に載っていた論文の矛盾点を見つけ、それを補足する仮説を打ち出すことができた。
これが認められれば、まっとうな生活が保証される。あたたかな家、あたたかな食事。孤児院が爆破などされなければわたしたちの周りにも当たり前のようにあったものを、ようやく手に入れることができる。
わたしは、ある科学者を訪ねて、自らが書き上げた論文を提出しようと思った。いくら大人が信じられないといっても、さすがにどこにもコネクションを持たない子供の論文など、受け入れてもらえないから。
その学者は、さまざまな論文を提出しており、それらは高く評価されている。雑誌に載っている笑顔がとても優しそうで、この人なら受け入れてもらえそうな気がしたのだ。
教授に初めて会いに行くときは緊張した。大学の構内に足を踏み入れると、学生達がわたしを見て、そそくさと離れていくのが判る。遠巻きに見てささやきあうか、あからさまに無視するかのどちらかであった。
昼休みの時間帯で、教授は研究室に在室していた。
「先生を頼ってきました。お願いです。わたしの論文を読んでください」
教授は驚いていたが、論文をどうしても提出したい旨を、その理由を訴えると、温かくもてなしてくれた。
「その幼さで苦労しているんだね。私でよければ力になるよ」教授は言う。
安易に同情されるのは嫌いだ。でも、この人の言葉は温かく響いた。
「まずは、論文を読ませてくれないか。いくら助けてあげたくても、学会をうならせるものでなければ推すことはできないからね」
わたしは、教授に論文を差し出した。ぼろぼろの紙に、鉛筆書きであったが、教授は嫌な顔ひとつせず受け取ってくれた。
「時間をいただけるかな。熟読しなければ評価できないからね。3日後にまた来てくれたまえ」
彼の言葉にうなずき、わたしは部屋を出た。
相変わらず遠巻きにして敬遠する学生達の視線も、今は気にならなかった。論文が認められれば、あなた達よりも優遇されるかもしれないのよ。わたしは自分の「才能」に誇りを持っていた。