ひかるのおにわ

御剣ひかるの日常と、子供達のこと

「望まれた破滅」 5

 路地裏の、さらに奥まったところにある瓦礫の陰でひっそりと暮らすわたし達。
 元はビルであったろうそこは屋根もほとんどなく、大型ゴミを集めてきてどうにか屋根の形にしていた。大雨が降れば十分にしのぐことは出来なかったが、唯一わたし達の存在を認めてくれる場所だった。

 孤児院が爆破され、わたし達と同じように路地裏に身を潜めるようになったグループが他にもあるらしい。焼け出された子供達は、先住の者達には迷惑極まりない侵入者として疎まれていた。なので、彼らとの接触は出来るだけ避けるために、このような場所を選ばざるをえなかった。

 やはり、子供だけで生きていくには限界があると考えを改める気になったのは、事件から2年ほど経ったころだった。
 いつ飢えと寒さで死んでしまうか判らないという状況ではあったけれど、それまではなんとかやっていた。だが、グループ最年少の女の子が栄養失調で死んでしまったのをきっかけに、わたし達は考えを変えたのだ。

 もう世間ではあの事件は風化しているだろう。孤児院にいた子供達を殺そうとする大人も諦めたに違いない。今からでも事情を説明して助けてもらおう。
 そんな考えも浮かび、実践してみたが相手にされなかった。
 ストリートキッズ達はあの手この手で大人の裏をかいてその日の糧を得る。その手段の中に、事件の被害者を装って同情心を誘い、金品を恵んでもらうというものも含まれていたらしいのだ。
 事件から2年経ったころにはもうその手段は使い古されたものとなっていたのだ。大人達も「もうその手には乗らない」と、わたしの話はまったく取り合ってもらえなかった。
 少し遠方の孤児院に行ってもダメだった。やはり焼け出された孤児を装った輩がもぐりこみ、問題を起こしていたらしいのだ。

 そこで、一番の年長者であるウィリスと、この生活を提案したわたしとが主になって、子供でも雇ってもらえるようなところを探し始めた。
 だが、やはりと言うべきか、全うな就職先は見つけられなかった。
 すっかり、ストリートキッズとなってしまったわたし達は、とてもではないが身なりがいいとはいえない格好だったから。それに、仕事に就くにはあまりにも幼すぎたから。

 擦り切れて着れなくなるまで同じ服、靴。男の子か女の子かも判らないような薄汚れた顔、体。
 こんな身なりの子供に親切にしてくれるような大人は、この街には存在しないのだ。

「そんなに金がほしけりゃ、マフィアの手下にでもなったらどうだ? 手っ取り早く稼げるぞ。……もっとも、生き残られればの話だがな。あの連中はガキどもを使い捨てにするらしいからなぁ」
 ある大人がこんなことを言って笑った。もちろん、彼は本気でわたし達にマフィアの手下になれと言っているわけでも、そもそもなれるとも思ってはいないのだろう。彼の笑いには明らかにあざけりが混じっていたから。

 これ以上あの子達を飢えさせるわけにはいかない。最悪、その手段に頼らざるを得ないのかもしれない。
 わたしはマフィアとストリートキッズ達のつながりを調べ始めた。
 人々の噂に耳を傾け、図書館にもぐりこんで新聞や本を読んだ。

 そこで、衝撃の事実を知ってしまったのだ。
 わたし達の一生を狂わせた、あの事件の真相を。